こんな感じ

west2692008-09-20

今日の一枚は土間材(シュタインアール)の作業風景。

外国旅行などでにわか仕込みの言葉が通じない時は、いよいよとなったら身振り手振りがある。少々の誤解や紆余曲折があっても、概ね何とかなる。

設計を業とする者にとって図面は建築の出来上がるべき姿を施工者に伝えるための必要不可欠なものだ。図面の描き方を身に着けることは言語の習得と一緒で、建築の勉強の第一歩といってよい。喋れなければ表現も出来ない。
さて、直線は測ることが出来るので情報は正確に伝わるが、漠然とした曲面を適切に伝えるのは難しい。もちろん図面も描くが、それだけでは足りない。こちらの思い入れが職人に何処まで届くかどうかが最後の決め手になる。図面・模型・言葉でも足りない時は、身振り手振りしかない。

福々亭の土間は床と壁を人の皮膚のように切れ目なく繋げたかった。「地面が盛り上がって床を支えた感じですね。床と壁との間にはつなぎ目が出来ないように。こんな感じで…」と図面を示しながら手で空中に弧を描いてみせる。
素材の性質上難しいことは判っていたので、工事始めの顔合わせの時、下地が出来た時、左官の出番になった時等々、折に触れ「こんな感じで、やって欲しいんですが」と鏝を動かす真似をした。
本番では戸惑いも迷いもなく、どんどん作業が進んでいた。数ヶ月の間に作戦を立てていたと見え、材料の調合も道具もいつもと違う。左官屋の親方は「判ったよ」と苦笑しながら、「こんな感じ」を仲間の職方に伝えていた。

土間が仕上がった時、私はいなかった。左官屋の親方は「こんな感じだ、っていうんだから参るよなあ」と身振りを真似ながら帰っていったという。