隣のディオゲネス

west2692008-09-24

昔々ギリシャディオゲネスという人がいて、日暮樽に寝そべって思索していたという。ある日、お偉方が彼の前に立ち「お前さん、何か希望があるか」と訊ねた。答えて曰く「あんた、俺の日陰になって邪魔だから、そこをどいてくれ」。

さて、日本の小さな建物の代表といえば茶室が筆頭に挙がる。立って半帖、寝て一帖というくらいだから、座ってお茶を飲むのには2帖でも十分な広さではある。

陶芸家の作品展のために、そんな2帖の茶室を設計した。分解・組み立てが容易なように壁を軽くしなければならない。その為にアルミの発砲板を使って、しかも特注で曲線に加工した。届いた梱包を開けたら、なんと曲げる向きが違っている。短辺方向で頼んだのに、長辺方向で来ているじゃないか。このままだと「こんにちは」とお辞儀するか、製品を見て驚いた僕たちみたいに「のけぞった」壁になってしまう。再注文していたら作品展に間に合わない。

しかし、設計屋にとっては土壇場のアドリブも芸の内なのだ。めげてはいられない。「うーん、それならこれでどうだっ」という訳で、縦の物を横にすると、四角いはずだった茶室がこのように円い茶室に無事早変わりした。

今日の一枚は隣家の屋根で暮らす現代の哲人ディオゲネス。晴れた日はこのように紙筒の中で「グーグー」している猫でもある。
(9月15日。生存最適空間参照)