アテはないけど

west2692008-09-29

「曲ったことは大嫌い」という人は多いだろう。しかし人間社会の道徳やら建前と違い、自然に育った木は曲っているのが当たり前なので許して欲しい。
市場に出回る木材は真っ直ぐだ。これは真っ直ぐなるよう育てられ、製材されているからだが、この仕事についた当初は真っ直ぐな材木が普通だと認識していて、特に疑問も感じなかった。民家の写真を見て、木造の技術が未熟なんだなあと勘違いしていた。今思えば未熟なのはこっちの方だったんだな。

山の斜面に生えた木は最初斜面に直角に芽を出す。その後空に向かって真っ直ぐ伸びるので、根元で曲っている。曲っている部分をアテと呼ぶ。この部分は狂いやすく使いにくいので、建築には一般的に使われないが、伝統的な民家などで鉄砲梁と呼ばれる手法で使われているものを見かけることがある。五箇山の合掌造りはこの手法で軒先を低く抑え、内部空間を高く保っていた。意匠的にも美しい。

くせのある素材も使う側の意欲と工夫次第なのだが、予算と工期に縛られる建築工事ではなかなか難しいのが現実でもある。

今日の一枚は曲りくねった間伐材。普通なら山で処分され、平地まで降りてこない。
長さも2メートルくらいしかないので建築材としては役に立たない。

だが5,6年前、友人の工務店社長から「今山にいるんだが、曲った木を使うか?使うのなら持って帰るが…」との電話があった。アテはなかったけど「使いたい」と答え、彼の作業場に保管しておいてもらった。

小龍庵では軒を大きく出したい箇所があったので、軒先を支える方丈に使ったらどうかと考えた。写真は建て方の時に曲り材を取り付けた状態。

不ぞろいで、曲った個性派ぞろいのなかから調和するものを5本揃えるのは案外難しい。材料を広げて、並べて、あれやこれやと入れ替えて、何とか仲良くやれそうなメンバーを揃えた。