物造りの知恵

west2692008-10-26

今日の一枚は「窯場のある家」のストーブ背面にあるレンガ積の割り方のサンプル。

煉瓦積みの端部の1列だけ台形に加工したい。選んだ煉瓦は輸入品で、色が良いのだが少々表面が脆い。「だから欠け易いので、きれいに切り揃えて積むことができないよ」と難しげな顔で煉瓦積みの職人が牽制してくる。
ここまでは予想通りだった。

「それならば、無理に揃える必要は無いです。むしろ石の『割り肌』みたいな味のある表情に積めませんか」と訊ねてみると、「ああ簡単だ」と言う。

実は『割り肌』という仕上げは、幅広のノミでパッコン、パッコンと時間を掛けて煉瓦を割るのだろうと考えていた。石の表面をノミで仕上げるイメージが強かったからだ。

ところが、実際の作業はいたって簡単だった。電動のこぎりでチュン、チュンと素早く煉瓦の表と裏に浅く切れ目を入れる。ハンマーでパコンと叩く。はい、出来上がり。

意外だった。

「えーっ、こんなんで出来るのか」と驚いているのを見て、彼は得意な気分だったのだろう。次々と楽しそうに煉瓦を割り始めた。
下の写真はその煉瓦を積んだ所。『出来る!』と知れば、要求は更にエスカレートする。鋸目はもっと浅く、目地も浅く広く素朴な感じに仕上げてもらった。

台形の出っ張り部分はストーブの熱がガラス面に放射することを防ぐためにある。
頭で考えて簡単そうなことが難しかったり、その反対だったりする。その見極めはなかなか難しい。
煉瓦の割り方に、体験に根ざした物造りの知恵の大切さを見た気がした。