臨機応変

west2692008-11-13

今日の写真は楽庵の腰壁。「モルタル櫛引仕上げ」の一種。

楽庵は武蔵小金井の準防火地域に建つ。簡単に言うと、建築基準法でいうところの準防火地域では外壁に板を張ることができない。隣地が火事の際に燃え移るから、可燃材料はイカンのだという。もちろん周囲が充分に広ければ問題は無いのだが、広い敷地が望めないから住宅密集地なのだ。無理な話だ。
それでは、腰の部分の仕上げを何にするのが良いか。民家の移築なのでこれにはちと困ってしまった。板張りの変わりにタイルや石では高価だし、サイディングは似合わない。漆喰は汚れやすい。防火加工した板もあるけど、やはり高くて、しかも山小屋風というか、なにやらバタ臭い。
結局普通のモルタルを塗って、模様をつけて仕上げることにした。例によって「櫛引きみたいに、縦方向に、こんな感じで」と身振り手振り混じりで説明する。うなずきながら話を聞いていた左官職は5,6分後に見本を作って来た。

いったいどんな道具を使ったのか不思議に思い聞いてみると、下の写真にあるような鏝みたいなものを持ってきた。

実はこれ、鏝ではない。もちろんノコギリでもない。手にしている道具はタイル貼りの際に合板の上で接着剤を伸ばす道具なんだそうな。仕上げ専用の道具ではない。そういえば別の現場の左官職はスタイロフォームや竹箒で表情を出していた。
ベテランの職人は身の回りにある道具と手段を臨機応変に駆使してイメージを実現できる。断熱材や掃除道具で建築の味付けをする。時としてこういうアドリブができる所が面白い。