安土城と粗い石

west2692009-02-20

今日の一枚は大谷石。切りだしたばかりの石の表情は少し緑がかかっている。
建築を題材にした小説がある。安土城を建てた大工の物語「火天の城」とル・トロネという修道院の工事監督の日記「粗い石」。前者は織田信長が一流の職人を集め最高級の素材と技術の粋を集めて造った絢爛豪華な城だ。天下一の城だからどうしても必要という大工の要望で、敵国の武田領から伊勢神宮用の用材である木曽ヒノキの大木を切り出してくる。きこりが命と引き換えに用材を切り出し、木挽きが神がかりな製材技術で柱にして、職人達が様々な困難を乗り越え、7年間の年月を掛けて完成した。しかし、半年後には信長の死とともに焼け崩れ、風変わりな建築という伝説が残った。

もう1つのトロネ はシトー派の修道院。ここでは建設そのものが信仰生活でもあったという。職人ではない素人の修道士がひたすら石を切り、積みあげた。石も同じように自力で建設地から切り出した。表面は粗く、固い石だ。工事監督は「もっと加工しやすくてきれいな石がある」との誘いを拒み、身近な石の素朴な力を活かすことに知恵を絞る。装飾を排除し、幾何学的ルールに基づき全体を秩序立ててゆく。素材と空間の力で建築を表現したわけだ。物語の監督は完成を見ずして死んだが、建物は今でも残っている。