那須野が原のバロック建築

west2692010-04-04

「日本の社会は建築と非建築の違いが出来ていない」。最近の建築に関する座談会でこんな話を聞いた。価値有る建築が容赦なく壊される最近の風潮に関するコメントだ。建築と非建築の違いは、単純に言えば「見る者に訴える何かが有るか無いか」の違いでもあると言う。近代建築の巨匠であるル・コルビジェも「バラックだってそうした力のあるものは建築なのだ」と言ったらしい。
那須塩原の現場の帰り、道路工事をしていたのでいつもの道が通れない。だが周りは広くて見晴らしがいいので迷う心配は無い。迷っても道は空いているので修正も容易だ。適当に方向を定めて走り出した。
そしてこんな蔵を見つけた。→今日の一枚。「何かを語りかける」と言っても、「腹が減った」とか「あんた誰?」とか話しかけてくる訳じゃない。当たり前だけれど。
「よく気がついたな。まあ一つ、俺を見て行けよ」と言った調子だ。樋受けの金物は花菱風、垂木の小口、蔵窓の装飾と鉄格子はブルーグレイに塗装してある。同じ素材、同じような形、同じような規模の蔵でもこうした装飾の細部がそれぞれ異なる。同じものは一つも無い。風景には調和するが個性はそれぞれ失わない訳だ。大人は和して同ぜず、小人は同じて和せず。魅力ある景観もそうやって生まれるのだと思う。
そんな訳で下の写真は同じ蔵の妻側のアップ。

一見伝統的な土蔵の装いだが、破風板の処理が怪しい。窓の庇の上で切れている。これが標準的な納まりだったかな?もしかして、ブロークンペディメントの一種なのかな。そうなるとバラック、いやバロック建築風ということになる。石積構造なので西洋建築と親和性を持ってしまったのかもしれない。昔の仕事は中々油断は出来ないのだ。