「ジミたな」の話

west2692008-10-18

小説「ねじまき鳥クロニクル」には井戸が2箇所出てきた。物語の語り部が潜む井戸と、満州国モンゴル国境で囚われた兵士が投げ捨てられる井戸だ。どちらの人物も長い時間を井戸の底で沈思黙考して過ごす。人事ながら、食事とトイレが気になった。闇切り裂く一瞬の光が人生を変えるほど劇的であっても、暗くて狭い井戸の底に降りて行くのはどうも苦手だな。

という訳で今日の一枚は井戸の写真。
8年前、塩山駅の北口にある旧高野家住宅(通称甘草屋敷)の外構設計を行った時に修景したもの。昔の屋敷構えを復原するために堀を探り、大和塀を造り、柿の木を植えた。
屋敷の中には防空壕と水の出ない井戸も2つ残っていた。防空壕は屋根が抜け落ちていた。井戸は既に塞がれていて、投げ込まれる恐れも、孤独にひきこもる暗闇も残ってはいなかった。防空壕は潰して、井戸は縁石を積み直した。
予算の関係で当初の計画には井戸の屋根は無かったが、工事の終わる頃上屋を掛けることができた。

話し変わって、「桃栗3年柿8年」という。8年後の甘草屋敷の柿もこんな風に色づいていた。

柿の向こうに見える茅葺の建築は「ジミ棚」。かつて農家の裏庭で見かけた建物だ。丸太・ワラ・ムシロ・ゴザ等の他、農作業の道具を保管したり、トウガラシやトウモロコシを干したりする。小規模ながら昔の我が家にもあった。ある日、同級生の家で干したトウモロコシを焼いておやつにくれた。ジミ棚の前でしゃがんで食べたが、あれは硬かったな。