ぎっちょんかご

west2692009-08-25

今日の一枚は「崖造り」の風景。崖造りとは長野県の木曽福島に見られる建築の方法。ご覧のように、川沿いの敷地に家がひしめいている。最初は倹しい暮らしであっても、家族や荷物が増えると家を広くしたくなる。両側には家が建ち、前面は道路、裏には川が流れている。
こうなると川の上か空中に伸びてゆくしかない。崖の上に方杖で支えて跳ね出す。それでも足りなきゃ3階を乗せる。中には4階建て、なんて勇敢な家もある。川は木曽川という国有水面だ。本来ならその上にせり出して、家は建てられない。堂々たる違反建築なのだ。構造的にも怪しいが、こうしたゲリラ的でエネルギッシュな建築は魅力的だ。どうせなら壁も板張りにして、コンクリートの河岸も石積みに戻して、景観に配慮して欲しかった。
山梨にも昔々「ぎっちょんかご」という建築方法があった。こちらは増築どころか、一段下がった河川敷に柱をいきなり建てて、道路と同じ高さに1階の床が来るように家を造っている。道路が玄関で川の上が住まいになる。硬い言い方をすると「国有水面の不法占拠」ともいえる。不法占拠の場所でラーメン屋なんかを営んでいた。
山梨市の亀甲橋の袂に最後の一軒が残っていたが、ある時前を通ったら姿を消していた。絶滅した訳だ。
深沢七郎の『笛吹川』という小説にその建物が出てくる。実在していれば「ああ、あの建物ね」と雰囲気が判るのに、無ければ想像に頼るしかない。大げさかも知れないが、建築文化の一つが永遠に失われてしまった。惜しいことをしたと思う。
下の写真は上海の「理弄(リロウ)」。

こちらも空へ、空へと増殖して行き、それでも足りなくて路上にせり出している。
普通に考えれば危険に思えるが、その直下で骨董を並べて売り買いをしている人達が居る。通りに椅子を並べてくつろぐ人たちも居る。