牛奥の土

west2692009-03-10

古い民家を移築する際に、土壁も落として再利用することになった。「それは、大変ですよ」と言ったが、建築主のHさんは仲間を集めてやるという。今日の写真はそんな仲間達が土壁を落としているところ。
カケヤというデカイ木槌みたいなもので叩けば簡単に落ちるだろう。「日ごろのストレス解消にもなる」、そんな意見もあったが、そうは行かない。土壁の中には小舞という竹で組んだ網状のものが入っている。こいつに弾力があって、クッションとなって、カケヤの衝撃を吸収する。力任せで叩けば、壁にはひびが入るか穴が開くだけで、思うように落ちない。
暫く眺めていて、一計を案じた。写真の壁で色の少し変わっているところが見えるだろうか。ここには小舞竹を支える貫という部材が水平に入っている。こいつは木だから竹よりは弾力が少ないし、叩いてもカケヤは突き抜けない。
貫に沿って軽く叩いて横に亀裂を作れば、自重で落ちるだろう。やってみたら上手く行った。
ダイナミックにぶっ叩く必要はなくなったので、ストレス解消には今ひとつだったかもしれない。
さて、苦労して土を落としたが、新しい壁にはちと足りない。この辺りじゃ土壁用の泥なんて売っていない。地面を掘ろうにも土地が無い。他人の畑を掘るわけにも行かない。
どうしようかと考えていたら、知り合いの水道業者から電話があった。
「浄化槽を埋める為に掘った穴から粘土が出た。要るなら運んでやるよ」。「求めよさらば云々」ではないが一歩踏み出しさえすれば、物事は前に進む。土と一緒に藁と、川から水を汲むポンプも手に入った。

下の写真はその時の「土」。

なかなか良い粘土だった。事務所近くの牛奥という所から出土した。後で知ったが、明治時代にできたトンネル のレンガはここの土を使って焼いたという。山梨、いや日本最古のレンガだったりして。