経験に裏打ちされた「勘」

west2692009-08-03

いよいよというのか、やっとこさというのか、今日の一枚は宮光園の揚屋。手前のヘルメットをかぶった人物の上で大黒柱が浮いているのが見えるだろうか。頭を使って持ち上げている訳ではない。
このブログは解体やら曳屋やら、埃っぽい写真が多いけれど、民家の再生は多くの場合こんな地味な作業の連続なのだ。進入路の確保・荷物の搬出・解体・揚屋前の補強を経て、安全を確保してやっと建物を持ち上げる。本番は朝から始めて夕方には上げ終えてしまう。段取りに遥かに時間の掛かる仕事なのだ。
下の写真は油圧のジャッキ。

手前と遠くにあるこの赤い機械からシリンダーが伸びて出て建物を持ち上げてゆく。建物がある程上がったら、枕木を挟み固定する。そして、またジャッキを据えて、少しずつ持ち上げて行く。何度見ても、重い建物がこれで浮き上がるのは不思議な光景だ。
さて、この小さな機械は全部で12個(だったかな)あった。1台のコントローラで同時に動かせるジャッキは6台までだから、12台同時に動かすためには、2台のコントローラーが必要となる。
で、それぞれの動きが異なると建物は水平に持ち上がらない。古民家なら多少の変形があっても問題はないが、この建物の場合は外壁が左官の洗い出し仕上げになっているので、建物の歪みがそのまま外壁の損傷に繋がってしまう。つまり12台のジャッキがすべて同じ動きを同時にするように、2台のコントローラーを使って調整しなければならない。ちなみにコントローラーにはジャッキの動きを表す目盛りはない。油圧の強度を示すタコメーターみたいな針が付いているだけ。案外原始的なのだ。参考までに、次がコントローラーの写真です。

コントローラーはそれぞれ離れた場所で、別の人物が操作する。しかも、枕木やら、鉄骨が障害になりすべてのジャッキを目視できない。
同じ高さで持ち上げて行くのは個人の経験に裏打ちされた「感」と職人達のチームワークなのだ。